パリの街づくり、マーチン・ルーサー・キング公園

公園から始まる街づくり

今年2021年7月に完成した10haほどの都市公園マーティン・ルーサー・キング公園の建設が始まったのは、2004年。フランスの造園界を牽引するペイザジスト、ジャクリーヌ・オスティ氏の設計によるもので、パリの北西部の広大な国鉄跡地等を含むクリシー・バティニョール地区再開発計画の中心として作られた公園です。元々は2012年のオリンピック選手村用地計画だったものが、当時のオリンピック開催はロンドンに持って行かれ、最終的には3000〜3500戸の集合住宅開発用地となった場所です。

街に自然を、庭のような空間を暮らしの場に

周りの集合住宅やオフィスビルなどの建築物とシームレスにつながった公園の緑地は、子供たちが遊ぶ芝生のオープンスペースや恋人たちが愛を語らうアンチームな木陰、静かに散策する並木道、水を感じる湿地帯など、様々に異なる魅力的な緑の空間ー単なる公共緑地でなくーそれぞれが庭のような、植物の魅力とともに過ごせる場所であることを大切に設計されています。

夏はあらゆる場所で緑が茂り、都心であることを忘れてしまいそう。

木陰のベンチで寛ぐ人々。

また、公園全体の植栽のテーマの一つには「四季」があり、春エリアには桜などの花木、夏エリアは涼しい木陰を作る樹種、秋エリアには紅葉が美しい樹種、冬エリアには幹や樹皮が美しい樹種を選んで植栽し、より季節感を感じることができるような演出もされています。写真はないのですが、春は桜の木の下でパリの「花見」を楽しむ人々もあるのだそう。私も来年はぜひ行ってみなきゃと思います。


こちらは雨水を回収再利用するための溝に、湿地帯のイメージの植栽。

サスティナブルの装置、水のテーマ

サスティナブル、エコロジカルであるための仕組みも様々なレベルで組み込まれており、大きなテーマの一つが水です。
雨水集積のための側溝は、同時に湿地帯の風景を愛でるエリアともなり、機能だけではない、自然を取り込んだ美的な環境作りが大切にされています。
回収された雨水は浄化作用のある水生植物などを植栽した園内の4つの池を循環して浄化され、灌水等に再利用されます。この一連の水の流れは、公園の風景の重要な要素ともなっています。

土地の記憶、歴史からのインスピレーション

上の写真の池は、向こう側の鉄道跡を見せつつも近づかせない、バリアー代わりともなっています。公園の敷地にあった幾つもの鉄道関連施設は、再開発の際に別の場所にまとめて移転されたのですが、見える形で鉄道跡を残したり、園内のレール跡は、そのままドライ・ガーデンに転用するなど、積極的に場の記憶をも感じられるような設計も特徴の一つです。

また、パリの街づくりの歴史からのインスピレーションが設計のアイディアとなっているのも特徴的。シームレスに公園と住宅建物が隣接する構造は、実は19世紀オスマン時代のモンソー公園周辺の宅地開発の例の進化版として考えられてたのだとか。かつてパリ都市開発の際に、公園を囲んで高級住宅地を作る手法が行われたのですが、公園の緑は見えるものの完全に柵で囲まれ、街とは物理的に切り離される構造だったものを、現代版では、本当にシームレスに、街に緑を呼び込む形に作られました。


こちら完全に現代版の遊びのスペース。空間として美的かつ人々が使えるスペースであることが公園ならではの重要なテーマです。

自然に寄り添う庭づくりの感性を街づくりへ

今日では、都市開発の際にサスティナビリティやエコロジーの尊重を大原則とするのはもはや必然として認められるようになってきています。20年前に始まったこの公園を含む地域再開発計画でもすでに、公園、つまり生き物である植物で作られる都市の緑のスペースが中心的な役割を担う街づくりとして、エコロジカル、サスティナブルであることがごく当然という指針をベースに進められました。先駆的な舵取りには、自然に寄り添うペイザジストの感性が計画全体の中心的な存在としてあったということが言えます。

この計画開発に当たっては、建築家や行政職員、デベロッパー、市民団体など関わる様々な人々とワークショップを行うことで、異なる分野職能間での方向性とアイディアの共有が円滑にできたのも良かったとのこと。

オスティ氏は、パリではヴァンセンヌの動物園のランドスケープ計画、フランス国内ではナントやアミアンなど様々な都市で(もちろん国外でも)ランドスケープからの都市開発計画を行なっており、2020年のフランスアーバニスム大賞も受賞していますが、特に心に響くのは、生き物(植物、動物)が生きられる環境を大切に、そして快適性や美観といった空間としてのクオリティとユーザー視点での使い勝手をバランスよく配慮する設計の軸に、一貫してに生き物(植物)に寄り添う造園家としての姿勢があり、それが様々な都市空間の計画をより美しく快適かつサスティナブルにしていることです。

公共の緑地にも、緑の空間としてのクオリティへのこだわりを持つ、庭のような快適な場所をつくる、街中にお気に入りの庭のような緑地空間が増えたら、さぞかし暮らしやすいに違いない、と思います。

(ちなみに写真は2016年6月に撮影したものですが、ご本人のお話を伺う幸運に恵まれたので、ぜひシェアしたく、突然ながらマーチン・ルーサー・キング公園の話でした!)

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