ルイ14世の最後の庭、マルリー庭園

ヴェルサイユ宮殿からセーヌ川方面に向かって
7kmほど離れたマルリー=ル=ロワには
かつてルイ14世が最晩年に作らせた離宮がありました。

ルイ14世が造成を命じてから5年以上の歳月をかけて完成したマルリーの離宮に王が初滞在したのが1686年。最晩年には年の3分の1ほどをここで過ごすほど気に入っていたようです。

フランス革命を経て、またその後の時代の移り変わりの中で
離宮の建物はなくなり、庭園も往時の姿を失いました。
そして一旦は「幻の庭」となったマルリーの庭園跡は、
歴史研究に基づく再現としてデザインされた新たな庭となり、公園として公開されています。

幻の庭、マルリーの庭園を訪れる

ヴェルサイユとサンジェルマン=アン=レイの間くらいに位置するマルリー庭園は、パリからも遠くはないのですが、車でないと不便ということもあって、これまでなかなか行く機会がなかった場所。しかし「幻の庭」という呼び名が気になり続ける場所でもありました。

現在は国の保有地となっていますが、フランス革命を経たのち何人かの所有者の手を変えて19世紀、この土地と建物を所有して紡績業を営んだ企業家が破産し、すでに荒れ果てていた城館は解体され、建築に使われていた石や金属類などが資材として売り払われました。当時はまだ文化財保護も何もなかったわけです。

ルイ14世最晩年のプライベート・リトリート離宮

王が建築家ジュール=アルドワン・マンサールに命じて設計させたマルリーの離宮と庭園は、格式ばった騒がしいヴェルサイユの宮殿生活から離れ、ごく少数の限られたお気に入りの貴族たちのみを従え、プライベートを形式ばらない宴や狩猟に楽しく、あるいは静かに過ごすために作らせた場所でした。いわば宮廷の超VIPリトリートと言っていいかもしれません。当時、マルリーの離宮に招待させることは貴族にとって最高の栄誉であったことでしょう。

昔日の離宮と庭園を呼び起こす庭

城館とメインの庭園は、森に囲まれ、また周囲に比べて一段レベルが下がった場所にあり、すぐ近くまで来ないと目に入らないような立地になっています。現在は主に芝生とシンプルなトピアリーが並ぶ敷地の中心を囲むように、両脇にはかつての見事なプラタナス並木が残ります。

資材を売るために解体された城館は、そうした事象も歴史の一部であるとみるのか、再建はせずに、そのまま城館跡地の平面プランがわかるように石段が敷かれた空の空間になっています。正方形の中心に八角形のサロンを配した少し変わった設計は、ヴィチェンツァにあるパラディオ建築、ラ・ロトンドからインスパイアされたとか。

城館跡の後ろには、セーヌ川から引く潤沢な水を使い、ヴェルサイユ宮殿の庭園では実現が難しかったカスカッド=滝(日本の滝のイメージとはだいぶ違う滝...)が作られていました。


鏡池

城館の前には噴水と鏡池、庭園はそのずっと先のアブルボワールと呼ばれる馬に水を飲ませるための大きな池で終わり、その先にはパリ盆地の風景がずっと遠くまで広がります。要所要所にいくつもの噴水や素晴らしい彫像が配置されており、庭園の様は、当時「世界で一番美しい場所」と謳われたのだそう。
彫刻のオリジナルは、ルーヴル美術館のマルリーの中庭に展示されていますが、庭園にもコピーが配置されていますので、雰囲気はわかります。


庭園からアブルボワールを見る。

強者どもの夢の跡

写真を見るだけだと、また実際訪れてみても、かつては何か色々あったみたいだけど、今はだいぶスッキリしているなあという印象が強いかもしれません。それが現在のこの庭園の良さではないかと思います。敢えてそのように、何もない空間を残して、元々あった場の姿をぼんやりと想像させる程度にミニマルに、キーとなる池や彫刻などの要素でかつての空間を匂わせる、その手法とバランス感覚が心憎い。

特に、造作をシンプルにすることで、既存の地形の高低差を活かした形作られたのであろう、全体的に大掛かりな土地の造成の感じが大変に印象的。既存の地形を活かしたと言っても、どれだけの手がかかったものか。土地造成の具合の隅々まで、かつてあった人間の意思が感じられます。

とはいえ人工的であるばかりだと疲れてしまいますが、敷地内にも、その周りにも当時は王の狩猟が行われた森が広がっています。在りし日には、その森に包まれた、心地のよいコクーンのような美しい珠玉の隠れ家離宮と庭園であったに違いありません。

おわりに

ヴェルサイユの公園でもジョギングをする人々は多いのですが、今日のマルリーでは、さらに本気な感じで人々が走っています。離宮と庭園の中心を囲む散歩コースが、ちょうどよくグラウンドのトラックになっているのが面白い。街中を走るよりはずっと安全だし、気持ちも良さそう。程よい傾斜のアップダウンがトレーニングにはぴったりなのかもしれません。そのうちに私も走ってみようかな。

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