
秋も深まる9月のヴェルサイユ庭園、パルテール(花壇)の花々は咲きつづけ、夕方も18時頃までは明るいので、まだまだゆっくりと庭園の散策が楽しめる時期です。
トリアノン宮殿庭園、四人のニンフのパルテール
「パルテール parterre」とは、フランス式庭園によくみられる幾何学模様の花壇のこと。よく知られるかたちとしては、ツゲを刈り込んだアラベスク模様の「刺繍花壇」があります。上階からその模様を愛でるように設計され、城館近くにおかれるのが通常です。庭園の要素のなかでも、ひときわ維持管理に手がかかるものでもあるので、最大効果を出すためでしょうか。
ヴェルサイユ宮殿の庭園をみてみると、鏡の間に面した庭園の中央部分にはヴェルサイユに特徴的ともいえる「水のパルテール」がおかれ、オランジュリーを見下ろす南側にはトピアリーとツゲの刺繍模様、花の植栽の「南のパルテール」、ネプチューンの泉水に向かう北側には、より背の高い「北のパルテール」と呼ばれる花壇があります。
フランス式庭園に欠かせないといってもよい、マストアイテムのパルテールは、もちろん離宮であるトリアノン宮殿のフランス式庭園にもみられます。グラントリアノンの建築の魅力でもある柱廊(ポルティコ)に面したパルテール、そしてさらに散策の歩を進めると見えてくるのが「四人のニンフのパルテール」です。ニンフは自然界の精霊を指しますが、ここではおそらく水の精たち、若く美しい女性の姿で表現されることが通常です。このパルテールの装飾要素としてニンフやこどもの彫像がおかれたことからこの名前がつけられました。
四人のニンフのパルテールの様子
18世紀、ルイ16世時代の姿への修復
四人のニンフのパルテールは、17世紀に作庭された当初は別のデザインだった場所ですが、ルイ16世治世下の1770年代に(つまりマリーアントワネットの頃)、プティ・トリアノンの庭園も手がけたリシャール・ミックによって、大体的に庭園の模様替えがなされた際に、作られたパルテールです。
17世紀のフランス式庭園のパルテールは、ツゲでアラベスク模様を描く刺繍花壇から始まり、さまざまなモチーフの花壇が作られたのちに、18世紀になると、より手入れが容易な芝生を主体とした花壇が盛んとなっていきます。近年、パリ市立歴史図書館で近年発見された当時の図面にしたがって修復されたニンフのパルテールは、こうしたスタイルの変遷を見る上でも興味深い例です。
修復中の写真をみると、たしかに渦巻きと直線がミックスされたシンプルな形です。しかし、現代においても、このシンプルな形を実現するのは意外と難しかったそうです。というのも、地面が微妙に傾斜しているため、ガイドラインの糸を張るのみでは対応できず、実現にあたってはルーアンのフェルナン・レジェ職業高校の協力により、木型を作成・利用したのだそうです。現代においても、実は、基本的な手仕事が最短のソリューションになることもあるのかしら、と思わせられる事例です。
パルテールを飾るダリアの新品種「ニンフの庭」
幾何学形の芝生が基本要素ではあるのですが、先日ニンフのパルテールを訪れた夕暮れどき、まずうわーっと目を引かれるのが、ダリアを中心としたあふれるような花の植栽です。
庭の花の季節の最後を飾る、ゴージャスなダリアたち(1600本植栽された花のうち、500本がダリアだそう)。ガウラやロシアンセージと合わせた、ローズから紫のグラデーションを中心とした、優しい色合いのボリュームのある植栽です。あふれんばかりではありながら、ツゲの刈り込みの囲いが品の良さも醸し出しています。
特に印象的だったのが、このかわいい淡いピンクのダリアなのですが、実はこの場所のためにフランスの老舗育苗会社であるエルネスト・トゥルク社が5年をかけて作出し、ヴェルサイユに寄贈した新種のダリアだそうで、「ニンフの庭 Jardin des Nymphes」という名がつけられたのだそう。
庭の歴史を振り返りつつも、自宅の庭に植えてみたいダリアがまた増えました(笑)。